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東京地方裁判所 平成8年(ワ)3570号 判決 1997年5月19日

原告

相上久夫

右訴訟代理人弁護士

佐竹真之

被告

住友不動産ホーム株式会社

右代表者代表取締役

木下康

右訴訟代理人弁護士

井口寛二

瀬川健二

星野成治

右訴訟復代理人弁護士

手島康子

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告と被告との間に雇用契約が存在することを確認する。

二  被告は原告に対し、平成八年一月二一日以降毎月二〇日限り二五万九二五〇円を支払え。

三  被告は原告に対し、一二六七万五八六六円及びこれに対する平成八年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告の従業員であったが解雇を通告された原告が、右解雇は無効であると主張して雇用契約が存在することの確認及び解雇後の賃金の支払を求めるとともに、被告により営業活動を違法に制約され、これが労働契約義務違反にあたるとして債務不履行に基づく損害賠償を請求し、かつ、右違法な制約及び本件解雇により精神的苦痛を被ったとして不法行為に基づく慰謝料の請求をした事案である。

一  争いのない事実等(以下の事実は当事者間に争いがないか、末尾掲記の証拠によって認められる)

1  当事者

被告は、肩書地に本店事務所を置き、大阪、横浜、千葉、埼玉など全国各地に支店、営業所を設け、主として注文住宅の建築請負を業とする株式会社である。原告は、昭和六二年に被告に営業職員として雇用され、千葉支店柏営業所、千葉支店、東京南支店等に勤務し、平成四年一二月一日付けで柏支店に配属になった。

2  営業担当従業員の構成

被告において営業を担当する従業員(以下「営業員」という)には、「営業職員」と営業担当の「職員」(以下「営業社員」という)がある。営業職員と営業社員の主な違いは給料体系にあり、営業職員が基本給プラス成績による歩合給であるのに対し、営業社員はほぼ固定給である。

3  解雇の意思表示

被告は原告に対し、平成八年一月二〇日付け内容証明郵便によって、「営業職員としての営業成績が著しく劣る(平成六年二月二〇日以降、現在まで一年一一カ月の間、受注仮契約なし)ほか、出退勤及び勤務時間中の業務活動が著しく不明確、しかもそれらについて上司の指示命令に従わない等、職場運営上大いに支障を来している。よって就業規則第三三条第一項一、五号を適用して解雇する」との解雇(普通解雇)の意思表示をした(以下「本件解雇」という)。

なお、被告の就業規則三三条一項は解雇事由として、一号は「業務上やむを得ない事由があるとき」、五号は「会社業務の円滑な遂行に非協力と認められたとき」と定めている。

4  原告の営業成績

原告の柏支店配属後の営業成績は次のとおりである。

平成四年一〇月一日から平成五年三月末日まで 二件

成績 一六五位中一一〇番

平成五年四月一日から同年九月末日まで 二件

成績 一六四位中一二二番

平成五年一〇月一日から平成六年三月末日まで 二件

成績 一五五位中八二番

平成六年四月一日から同年九月末日まで 〇件

成績 一六二位中一六二番

平成六年一〇月一日から平成七年三月末日まで 〇件

成績 一七四位中一七四番

平成七年四月一日から同年九月末日まで 〇件

成績 一八三位中一八三番

平成七年一〇月一日から平成八年一月二〇日まで 〇件

5  申込制度

被告は、営業に関し、平成三年一月から「申込制度」という制度を採用した。その内容は、顧客から申込金五万円を受領しないかぎり、被告は顧客に対し、建築を希望する土地の敷地調査や希望住宅の間取りの設計・見積等のサービスをしないという制度である。被告は、右制度導入以前は、希望する顧客のほとんどにただで右敷地調査や設計・見積をしていた。なお、右敷地調査や設計・見積は契約締結前の段階のものであり、顧客が右見積に同意すると仮契約締結に至り、さらに詳細な設計・見積をし、最終見積書に同意が得られると、最終的な工事契約を締結することになる。

6  当番制

被告における基本的な営業方法は、営業員がモデルハウス展示場(以下「展示場」という)において接客し、顧客に「お客様アンケート」に記入してもらい、このアンケート用紙(以下「記名カード」という)をもとに、顧客方を訪問するなどして営業するというものである。被告は、平成六年ころから「当番制」を採用したが、これは、平日には営業員を展示場に配置せず、女性アシスタントが顧客と接客し、女性アシスタントが顧客に記入してもらった記名カードは、あらかじめ定めてある当番の営業員に渡すという制度である(証拠略)。被告は平成六年九月ころから、原告を当番に指定しなかった。

7  原告の賃金

被告の給与支払方法は、毎月末日締め当月二〇日払いである。

本件解雇当時の原告の平均賃金は、一カ月二五万九二五〇円であった。

二  主たる争点

1  本件解雇は有効か

2  原告が主張する「営業活動の制約」は債務不履行・不法行為に該当するか。

三  争点についての当事者の主張

1  争点1(本件解雇)について

(一) 被告の主張

本件解雇理由の第一は、営業成績の極度の不良である。原告の営業成績は、前記一争いのない事実等4記載のとおりであり、惨々たる成績というほかない。

本件解雇理由の第二は、勤務態度が芳しくないということである。具体的には出退勤及び勤務時間中の業務活動が著しく不明確であるほか、これらに係る上司の指示等に従わず、かえって反抗的な態度を取り続けていたのである。例えば、原告は、出勤簿の押印をある期間まとめて押していた。朝出勤していないにもかかわらず出勤印だけあるということも珍しくはなかった。これに対し、上司が何度も注意した。これに対する原告の対応は、他の社員の管理はできているのか、支店長の能力もないくせにうるさい、支店長の能力のないヤツが余計な事をいうなとかに終始していた。そしてその注意の最中、平成七年三月一三日には、その頭で支店長の顔面を突くなどの暴行を働くこともあった。さらに、被告では、社員が外出する際、その行き先を把握するために、社内のホワイトボードに行き先を記載している。原告は、朝出勤しても日中はほとんど社内にはいず、外出先もまったくといっていいほど前記ボードに記載もせず報告もしていない。週一回の支店営業会議にも出席しない。原告の勤務は全く把握できない。これら一連の状況を見たとき、被告は、原告をこれ以上社員の地位におくことはできないと考え解雇に及んだのである。

(二) 原告の主張

被告は営業職員中心の営業から営業社員中心の営業に転換し、営業職員を政策的に切り捨ててきた。本件解雇事件の本質も、被告による営業職員の切り捨ての一環に他ならない。原告の営業成績の不振は、平成四年から平成六年にかけて被告が実施した左記<1>ないし<6>の営業活動の制約によってもたらされたものであり、営業成績の不振について原告に責任はなく、営業成績の不振を理由とする解雇は権利の濫用であり無効である。また、被告は就業規則三三条一項一号の「業務上やむを得ない事由があるとき」を解雇事由としてあげているが、営業成績の不振が「業務上やむを得ない」と判断されるためには、単に営業成績によるのではなく出勤状態、勤務状態、協調性等も考慮し、使用者が指揮命令権を行使しても職務の成績向上の見込がないと判断されることが必要であるが、原告に対しては営業から排除するのみで原告の成績を向上させるような試みは一切行われておらず、被告の突然の解雇の意思表示は、かかる側面からも権利の濫用といわざるを得ない。その他の解雇事由である「原告の出退勤及び勤務時間中の業務活動が著しく不明確である」との事実並びに「それらについて上司の指揮命令に従わない」との事実は存在しないし、そのことについて被告から指示命令を受けたこともない。よって、本件解雇は無効である。

<1> 被告は原告を当番から外した。

<2> 一般に同業他社は申込制度を採用しておらず、最初の敷地調査・設計等の時点ではなんら費用を請求しないから、被告の営業員は他社との競争において著しく不利になり、営業成績が低下せざるを得ない。そこで被告においては、申込制度を建前としては採用しながらも、実際には営業社員の場合には五万円を預からなくとも敷地調査・設計等を行うという運用が行われていた。ところが、営業職員である原告の場合だけは、申込制度を厳格に運用し、五万円を入れない限り敷地調査・設計等に入らないという扱いが行われていた。さらに、原告については五万円を入れても設計等が仕事をしないということもあった。

<3> 原告以外の営業社員は柏支店の有する柏、南柏、松戸の各展示場三カ所に自由に行って営業活動を行うことができたのに、原告が営業活動を行うことの許された展示場は柏展示場一カ所に限定されていた。これは、営業職員である原告に対する合理性のない差別である。しかも、原告が唯一営業活動を許されていた柏展示場は来客数が少なく、そのことを理由に平成八年四月からは閉鎖されたほど不振の展示場であった。

<4> 柏支店において、営業社員で営業不振の者については、来場者の多いつくば展示場の担当に移すことによって、営業成績を上げるという成績改善措置が取られていたが、原告に対しては成績低下後も柏展示場一カ所に固定され、かかる改善措置は取られなかった。

<5> 被告は平成七年七月からは原告を営業職員として扱わず、他の営業社員と差別し、排除していた。

<6> 被告は住宅雑誌購読者から送付された資料請求の葉書(以下「資料請求カード」という)を原告に対してはまったく割り振らなかった。このような資料請求者は、住宅の新築等にかなり関心のある者であるから、それなりに有力な顧客となる。かかる顧客が与えられないことは原告にとって、営業活動の大きな制約であり、また、他の営業社員との関係でもなんら合理性のない差別である。

これらの原告に対する営業活動の制約は、労働条件の不利益変更に該当し、使用者の労務指揮権・業務命令権の範囲を超え、差別的営業活動の制限であり、違法無効である。

2  争点2(債務不履行・不法行為に基づく損害賠償請求)について

(原告の主張)

(一) 原告・被告間の労働契約においては、黙示あるいは慣習として、被告が平成三年以降原告に適用した申込制度の採用及び不合理な運用、当番制からの担当剥奪、担当展示場の固定、資料請求カードの不担当、つくば展示場の不担当等一連の制約のない営業活動が契約の内容になっていた。右一連の制約は、これまで原告に認められていた営業活動を制約するものであり、労働契約の一方的な変更である。被告は、使用者として原告に対し一定の営業活動を保証する義務があるにもかかわらず、その義務に違反し一方的に営業活動を制約し、その結果平成四年以降、原告の収入は低下を余儀なくされた。したがって、原告は被告に対し、右一連の制約実施前の平成元年度から平成三年度までの平均年収六七三万三二〇二円と実施後の平成四年度から平成七年度までの各支給給料との差額合計九六七万五八六六円を被告の債務不履行によりもたらされた損害として請求する。

(二) 被告の右一連の制約は労働条件を一方的に変更するものであり違法である。被告は右一連の制約を違法なものと知りまたは知るべきであるにもかかわらず、原告に適用した。原告はこれらの一連の制約により従来有していた営業活動を行う権利(それにより収入を上げる権利)を侵害され精神的苦痛を被った。加えて原告は被告により理由のない解雇処分を受け精神的苦痛を被った。これら被告の不法行為により原告の受けた精神的苦痛に対する慰謝料として三〇〇万円を請求する。

第三判断

一  解雇に至る経緯

争いのない事実及び証拠(略)によれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠(略)は、右各証拠に照らして信用できない。(なお、原告は書証略の却下を求めるが、書証略はその内容からして本件との関連性が認められ、書証略は、その提出時期、内容からして、時機に遅れたとは認められないので、右却下の申立は採用しない)

1  原告は入社後平成三年までは、年間六ないし九棟を売り、平成三年一〇月には東京南支店の主任を命じられており、営業員としてそこそこの成績をあげていて、営業経験も豊富で営業能力も充分有していた。

2  しかし、平成四年一二月一日付けで柏支店に配属になった後は、平成六年三月末日までは半期(四月から一〇月まで又は一一月から翌年三月まで)二棟づつの売上をあげていた(最終の契約成立は平成六年二月二〇日)ものの、その後は本件解雇に至るまでまったく売上がなかった。原告が柏支店に勤務していた期間中、柏支店において、半期の間に売上がまったくない社員は稀であり、一年間以上売上がない社員は原告以外にはいない。

3  平成五年九月、JR東日本株上場の際、原告は同株購入申込のために、社内で就業時間中に女子職員に対し保険証のコピーを要求したため、柏原渡柏支店長(以下「柏原支店長」という)が原告に注意したところ、原告は「俺は柏原を支店長とは認めていないのだからお前の言うことは聞かなくていいんだ」と言った。

また、柏原支店長が同年一二月の賞与支給時に原告に対し、「力があるのだから二棟といわずもう少し多く受注したら」と言ったところ、原告は「俺は歩合給社員なのだから余計なことを言うな」「俺はお前を支店長とは認めていない。余計なことは言うな」と言って反抗した。

4  被告における基本的な営業方法は、営業員が展示場において接客し、顧客に記入してもらった記名カードをもとに、顧客方を訪問するなどして営業するというものである。そして、営業員が一棟を売るためには、記名カード約三〇枚を取得して、これに基づいて営業をする必要があった。原告は、半期二棟づつの売上をあげていた平成六年三月ころまでは、半期で四〇ないし五〇枚の記名カードを取得していたが、その後、記名カードの取得枚数が減り、特に平成六年一〇月から平成七年一二月までの一年三カ月間の取得枚数は合計九枚に過ぎなかった。

5  原告は売上がなくなった平成六年二月ころから、無断欠勤し、あるいは出勤しても外出先を柏支店のホワイトボードに記載するなどの報告をすることなく外出し、直帰連絡もせずに外出先からそのまま帰宅するようになり、特に平成七年二月以降はこのようなことが日常的になっていた。それでいて、原告は出勤簿にはあらかじめ一週間ずつまとめて出勤印を押捺することが頻繁にあった。また、原告は平成六年九月ころより、週に一度の支店営業会議及び毎朝の朝礼にも出席しなくなり、平成七年一〇月には、半期に一度の支店全体会議にも欠席した。

営業員は出社せずに直接顧客宅に寄ったり、顧客宅からそのまま帰宅する者も多く、被告は、営業成績さえ上がれば営業員の出退勤の管理に厳しくなかったものの、原告の場合は前記のとおり、平成六年四月以降売上はまったくなく、かつ、無断欠勤や外出先の報告のないことも多かったため、平成七年三月一三日、柏原支店長が原告に対し、「休んでいるのに出勤簿に印を押すな」と注意すると、原告は「うるさいんだよ。支店長の能力のないヤツが余計なことを言うな」と言い返して口論、取っ組み合いになり、その際、原告は柏原支店長の顔面を頭突きし、柏原支店長は「顔面打撲・口腔内挫傷」の傷害を負った。

6  平成七年六月に、当時本社営業統括部担当部長兼京葉支店長であった前田博が原告に対し、京葉支店への異動を打診したが原告は断った。

二  本件解雇の効力について

右認定した本件解雇に至る経過によれば、原告は平成六年二月二〇日から本件解雇に至るまでの約一年一一カ月間まったく売上がなく、しかもその間、無断欠勤したり、出勤しても外出先の報告をせずに外出してそのまま帰宅してうまうことが多く、かつ、営業の基本となる記名カードもほとんど取得せず、原告が果たして営業活動をしているのかどうかも不明瞭な状態が続いていたうえ、原告は上司である柏原支店長に反抗的な態度を取り続け、勤務態度改善の意欲も認められなかったのであるから、原告のこのような勤務状況及び勤務態度は、就業規則三三条一項解雇事由の一号「業務上やむを得ない事由があるとき」、五号「会社業務の円滑な遂行に非協力と認められたとき」に該当し、客観的にみても本件解雇には相当な理由があり、有効であるというべきである。

三  本件解雇に対する原告の主張について

原告は、原告の営業成績の不振は、被告が実施した営業活動の制約によってもたらされた旨主張する。そこで、この点について判断する。

まず、申込制度についてであるが、証拠(略)によれば、申込制度には、冷やかし客を排除して契約見込み客を特定するとともに、敷地調査や設計図作成の無駄な費用・手間をなくし、設計担当者が顧客のニーズに合わせて効率的に仕事ができるなどの利点があったこと、競争会社の中で、同様の制度を全面的に採用している他社は住友林業株式会社一社しかなく、その他の競争会社はただで敷地調査・設計等をするため、ベテランの営業員の中には申込制度を採用すると他社との競争に勝てないとの不満があったが、他方、申込金獲得後は、設計担当者等の支援によって契約締結に至り易く、経験の浅い若手営業員の即戦力化が図れ、営業員個人の営業能力に頼らず、全営業員で平均的に売上を確保できる利点もあったこと、申込制度は営業職員と営業社員に平等に適用され、申込制度採用後も二期(一年間)で八棟以上を売り、営業社員に変更になった営業職員が相当数存在し、申込制度により営業職員の売り上げが確保できなくなったとはいえないことが認められ、右認定事実によれば、被告が申込制度を採用したことが違法であるとはいえないし、営業職員に対し不利に運用していたともいえない。また、被告が申込制度を原告にのみ不利に運用していたと認めるに足りる証拠はない。なお、証拠(略)によれば、原告は平成五年一〇月ころ、顧客から自宅の新築工事の相談を受けて申込金五万円を受領して被告に渡し、設計を設計担当者に頼んだが、設計担当者が迅速に設計を行わなかったため、顧客が競争会社と契約してしまったことが認められるが、被告が原告の契約獲得を妨害するため、故意に設計を遅らせたと認めるに足りる証拠はない。

次に、原告に当番や資料請求カードを担当させなかったとの点であるが、争いのない事実及び証拠(略)によれば、柏原支店長は、原告の売上がまったくなくなったころから資料請求カード等の顧客情報を原告に渡さなくなり、平成六年九月ころからは原告を平日の当番から外し、平日の展示場来客者が記入した記名カードを原告に渡さなくなったことが認められる。しかし、前記一解雇に至る経験で認定した事実及び証拠(略)によれば、柏原支店長がこのような措置をとったのは、原告の売上がまったくなくなるとともに、その勤務状況等からして営業意欲が認められなくなったので、支店の売上を確保し、顧客情報を無駄にせずに有効に利用するためであること、原告は平成六年一〇月以降は、土日祝日でさえ記名カードをほとんど取得していなかったこと、平日の展示場来場者は少なく、原告が当番から外されていなかった平成六年九月までに原告が平日当番として取得した記名カードは半期で数枚であること、右当番から外されても、営業員が平日に展示場に行って接客し記名カードを取得することも不可能ではないことが認められ、これらの事実によれば、柏原支店長が原告を平日の当番から外し、資料請求カード等の顧客情報を原告に回さなくなったのもやむを得ない措置であるし、当番から外されたことと原告の売り上げが全くなかったこととの関連性も小さいというほかない。

さらに、担当展示場が固定されていたとの点であるが、証拠(略)によれば、原告以外の営業員も、原則として担当展示場で顧客と接客し記名カードを取得するように決められていて、担当展示場以外の展示場で記名カードを取得することは例外的であったこと、柏支店においては、各展示場の来客数に対応して担当営業員の数が決められ、原告の担当であった柏展示場は、平成五年ころから来客数が減少したが、これに応じて営業員の数も少なくなり、平成七年五月に南柏展示場が開設され、柏展示場担当営業員が南柏展示場も担当するようになると、営業員の数も増えたこと、原告以外の柏展示場担当営業員は、半期で約二ないし四棟の売上があり、つくば展示場担当の営業員の営業成績が柏展示場担当営業員の営業成績より特に良いとはいえないこと、原告が担当展示場の変更を希望したことはなかったことが認められ、右認定事実によれば、被告が展示場の担当について原告のみを差別的に取り扱ったとは認められず、また、被告が原告を本件解雇に至るまで柏展示場担当としたことや原告につくば展示場を担当させなかったことが違法であるとはいえない。

なお、証拠(略)によれば、被告における営業職員の数は平成四年ころ以降大幅に減少しており、被告が営業職員を減らして営業社員中心の営業に切り替える方針であることが窺われる。しかし、証拠(略)によれば、被告では営業職員が希望すれば、売上実績によって営業職員から営業社員へ変更できる制度を採用していること、右のとおり営業職員の総数は減少しているが、右減少者のうち相当数は、右制度を利用して営業社員に変更になったものであって、被告から排除されたわけではないこと、被告は営業方法について、営業職員と営業社員を差別していないことが認められ、被告が営業職員を政策的に切り捨てており、本件解雇がその一環であると認めることはできない。

結局、約一年一一カ月もの間原告に売上がなかった主な原因は、前記一解雇に至る経緯で認定した原告の勤務状況及び勤務態度にあるというべきであり、右営業成績が被告の実施した施策によってもたらされたとの原告の主張は採用できない。

四  債務不履行・不法行為の主張について

原告と被告との間の労働契約において、原告が主張する「営業活動の制約」を実施しないことが契約の内容になっていたと認めるに足りる証拠はない。また、前記三で認定したとおり、被告が違法に原告の営業を制約したとは認められないし、本件解雇が有効であって違法ではないことは前記二で判断したとおりである。

よって、原告の被告に対する債務不履行に基づく損害賠償請求及び不法行為に基づく慰謝料請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

五  結論

従って、原告の請求はいずれも理由がないので棄却する。

(裁判官 白石史子)

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